はじめに:完母を目指していた私の理想と現実
妊娠後期、助産師さんとの面談で「母乳とミルク、どちらで育てたいですか?」と聞かれたとき、私は「ミルクでもいいかなって思ってます。特にこだわりはないです〜」と答えていました。
その時は深く考えていなかったのもありますが、本当にどっちでもいいや〜って気持ちだったんです。
でも、いざ赤ちゃんが生まれて、育児が始まると、ま〜〜〜不思議なことに「できれば母乳をあげたい…」という気持ちがどんどん強くなっていって、、
ネットや育児書には「母乳が赤ちゃんにとって最良の栄養」と何度も書かれているし、いつの間にか「やっぱり母乳の方が良いんじゃないか」と思うようになっていきました。
さらに、周りの子持ちの友人たちからは「最初は大変だけど、そのうち出るようになるよ」「母乳が軌道に乗るとラクになるから!」なんて聞いていて、「私も自然にそうなるんだろうな」と、どこかで信じていました。
しかし、出産後に待っていたのは想像以上に過酷な現実でした。
長女は一過性多呼吸で生まれてすぐにNICUに連れて行かれ、1週間保育器の中で過ごずことになりました。
その間は看護師さんたちがミルクを与えてくれていて、私は母乳を搾って届けるだけの日々でした。
ようやく8日目に初めて母子同室となった時、私はやっと直接母乳をあげられると期待していました。
でも、赤ちゃんはすでに哺乳瓶の飲み方に慣れていて、更には私が扁平乳頭なのもあり、うまく乳首に吸いついてくれませんでした。
初めから直母がうまくいかないのは当然といえば当然だったのに、その現実はとても受け入れがたく、「自分だけが失敗しているような気がする」そんな思いで胸が締めつけられました。
出産して母乳が出ていれば普通に授乳することができると思い込んでいた
1. 「母乳神話」とは何か? その背景と正体をさぐる
「母乳こそが完璧な栄養」
「母乳じゃないと免疫がつかない」
「母乳で育てないと愛情が足りない」
——こうした言葉にどこかで触れたことがある方は多いはずです。これが、いわゆる“母乳神話”です。
■ 母乳神話の歴史的背景
母乳への信仰のような考え方は、実はかなり古くから存在します。産業革命以前、人類にとって「母乳」はほぼ唯一の安全な乳児栄養源でした。ミルク(人工乳)はまだ発展途上で、衛生的にも栄養的にもリスクが高かったため、「母乳がベスト」であるという意識は当然のものでした。
しかし20世紀に入り粉ミルクの製造技術が進歩し、安全性も向上すると、育児の選択肢は広がります。とはいえ、1970年代以降、世界的に「母乳回帰」の流れが強まりました。特にWHO(世界保健機関)とUNICEF(国連児童基金)は、母乳の推奨キャンペーンを展開し、母乳育児の利点を積極的に広めてきました。
この動き自体は、発展途上国などでの赤ちゃんの命を守るためには非常に有効でしたが、同時に「母乳以外の選択肢=二番手・不完全」といったイメージを作り上げてしまった側面も否定できません。
■ 医学的な視点:本当に「母乳が絶対」なのか?
たしかに母乳には、赤ちゃんの免疫をサポートする抗体や、消化吸収しやすい成分、さらには母子のスキンシップによる精神的効果など、多くの利点があります。世界中の医療機関が「できるなら母乳が望ましい」と推奨するのも理解できます。
でも同時に、現代のミルクは非常に質が高く、安全性・栄養面でもしっかりと研究されています。アレルギーの有無や体質、母体の健康状態、精神的ストレスなど、様々な事情によって母乳が難しい場合には、ミルクが赤ちゃんの命を支える大切な手段になります。
つまり、「母乳が良い」ということと、「母乳でなければいけない」は、まったく別の話なのです。
■ 善意がプレッシャーに変わるとき
母乳神話の厄介なところは、その多くが“善意”として語られる点です。「頑張れば出るよ」「母乳が一番だよ」といった言葉が、母親の心にプレッシャーを与え、「出ない私はダメな母親なのかもしれない」と自信を奪ってしまう。
この神話は、時代背景や文化、科学的事実が混ざり合ってできた「育児の理想像」のようなものであり、それが絶対の真実ではないということを、私たちはもっと冷静に見つめ直してもいいのではないかと思います。
でも、こうした背景を知ってもなお、私たちの中に残る「どこかで母乳のほうが“上”」という感覚。それは、ただの思い込みだけではないのかもしれません。
実際のところ、母乳とミルクにはどんな違いがあるのでしょうか? 本当にそこまで大きな差があるのか? ここからは、母乳とミルクの“現実的な”違いについて、もう少しフラットな視点で見ていきたいと思います。
“母乳がいい”と“母乳じゃなきゃダメ”は違う
母乳には赤ちゃんにとって理想的な栄養や免疫成分が含まれていることは事実です。でも、今の粉ミルクもとても質が高く、安全性も高いものばかり。
だからこそ、「母乳を目指すこと」はとても素晴らしいし、応援されるべきこと。でも、うまくいかないときやつらいときに、無理して苦しむ必要はないんです。
あなたががんばっている姿勢そのものが、赤ちゃんへの愛情です。
迷ったとき、罪悪感がわいたときに思い出してほしいこと
「母乳じゃなきゃダメ」と思い込むと、母乳がうまくいかないときに「私は母親失格なのかも」と思ってしまうこともあります。
でも、それはまったく違います。
母乳をあげること、ミルクに頼ること、混合で進めること……どの選択も、赤ちゃんを大事に思っているからこそ出てくる“正解”です。
あなたの赤ちゃんにとっての一番は、母乳そのものではなく、「笑顔でそばにいてくれるあなた」であることを忘れないでください。
だからこそ、自分に合ったやり方で母乳育児を目指していい
母乳神話を知ることは、「母乳なんてやめよう」という話ではありません。
むしろ、「神話に縛られず、自分のやり方で母乳育児にチャレンジしていいんだ」と安心して前に進むためのヒントです。
授乳の方法に正解はありません。あるのは、あなたと赤ちゃんにとっての“ちょうどいい”やり方だけ。
だからこそ、母乳育児を目指すあなた自身を信じて、自分のペースで進んでください。
終わりに:自分の選択を肯定してあげよう
母乳をあげたいという気持ちは、それだけで十分に尊いものです。
でも、うまくいかないときは「がんばり方」を変えてもいいし、「手放す勇気」を持ってもいい。
この記事が少しでも、あなたが自分の育児スタイルを肯定し、前を向くためのきっかけになれば嬉しいです。